角質層の細胞間脂質の約50%を占めるセラミド。この脂質ひとつが不足するだけで、肌は乾燥し、外部刺激に敏感になり、さらに炎症を起こしやすくなります。セラミドは「保湿成分のひとつ」ではなく、皮膚バリアの構造材そのものです。

セラミドとは何か——バリアの「構造材」

セラミドはスフィンゴイド塩基(長鎖アミノアルコール)と脂肪酸が結合した脂質の総称です。皮膚に存在するセラミドは「ヒト型セラミド」と呼ばれ、非常に多様な種類(サブクラス)が存在します(詳しくは第6話で解説)。

角質層では、セラミドはコレステロール・遊離脂肪酸とともに、細胞と細胞の隙間(細胞間)に「ラメラ構造」と呼ばれる規則正しい層状構造を形成しています。この構造が水分子の通過を物理的に妨げる「疎水性バリア」として機能します。

図1 : 角質層のラメラ構造とセラミドの位置づけ
角質細胞
CER
CHOL
FA
CER
CER
FA
CHOL
CER
角質細胞
CHOL
CER
CER
FA
CER
CER
FA
CHOL
角質細胞
CER:セラミド(約50%)
CHOL:コレステロール(約25%)
FA:遊離脂肪酸(約15%)
細胞間脂質に占めるセラミドの割合
約50%
コレステロール・遊離脂肪酸とともにラメラ構造を形成。セラミドが最も多く、バリア機能の中核を担う。
角質層の厚さ
10〜20 μm
髪の毛の直径(約70μm)の約4分の1。この薄さで水分保持と外部遮断を両立している。
セラミドの構造的特徴
疎水性
水に溶けない性質が、水分子の角質層内での移動を妨げる「疎水性バリア」を形成する。

このラメラ構造が正常に形成されているとき、皮膚は水分を保ちながら外部刺激の侵入を防ぐことができます。逆にセラミドが減少すると、ラメラ構造に「隙間」が生じ、水分が蒸発しやすく(TEWL増加)、外部刺激も侵入しやすい状態になります。これが乾燥肌・敏感肌の根本的なメカニズムです。

なぜセラミドは減少するのか

セラミドの減少には、大きく「加齢による生理的な減少」「疾患による病態的な減少」「環境・ケアによる後天的な減少」という3つの経路があります。これらが複合的に重なることで、乾燥肌・敏感肌の症状は悪化します。

図2 : 年代別セラミド量の変化(模式図)
100%
約85%
約70%
約55%
約40%
20代
30代
40代
50代
60代〜

※ 上記は研究データをもとにした概念的な模式図であり、個人差があります。加齢に伴いセラミド量が段階的に減少する傾向が複数の研究で報告されています。

加齢による減少

セラミドは顆粒層でケラチノサイト(表皮細胞)によって合成され、ラメラ顆粒と呼ばれる構造体に蓄えられ、角質層へと分泌されます。加齢とともにこの合成能が低下し、20代と比較して60代以降では角質層のセラミド量が大幅に減少することが複数の研究で報告されています。これが「年齢とともに肌が乾燥しやすくなる」主要な原因のひとつです。

疾患による減少——アトピー性皮膚炎

アトピー性皮膚炎では、遺伝的なフィラグリン遺伝子の変異に加えて、Th2型免疫応答が優位になることでセラミド合成に関わる酵素(セラミダーゼなど)の発現が変化し、角質層のセラミド量が著しく低下することが知られています。また、アトピー性皮膚炎の非病変部(見た目には正常な部位)においても、健常者と比較してセラミド量が有意に少ないことが報告されており、バリア機能の障害が全身に及んでいることを示しています。

さらに、セラミドの減少はタイトジャンクション(第3話参照)の機能にも影響し、外部アレルゲンの侵入を促進するという悪循環を引き起こします。

乾燥肌・敏感肌でのセラミド低下

アトピーなどの疾患を持たない乾燥肌・敏感肌の方でも、過度な洗浄・低湿度環境・季節の変化・紫外線などの外的要因によってセラミドは減少します。界面活性剤は角質層の細胞間脂質を溶出させる性質があり、洗顔や入浴を繰り返すたびに微量のセラミドが失われています。

加齢による減少
合成能の低下

顆粒層でのセラミド産生が加齢とともに低下。乾燥・小じわ・バリア機能低下が連動して起こりやすい。

アトピー性皮膚炎
病変部・非病変部の両方で低下

免疫応答の偏りによりセラミド合成酵素の発現が変化。外部アレルゲンへの過敏反応が増大する。

乾燥肌・敏感肌
外的要因による溶出

過剰洗浄・低湿度・紫外線・摩擦などにより細胞間脂質が失われる。日々のケアで進行しやすい。

セラミドが減ると何が起きるか——悪循環の連鎖

セラミドの減少は、単純に「肌が乾燥する」というだけでは終わりません。バリア機能の低下は外部刺激の侵入を増やし、炎症を引き起こし、その炎症がさらにセラミドの合成を阻害するという悪循環を生み出します。

図3 : セラミド低下が引き起こす悪循環
セラミド減少
ラメラ構造に隙間が生じる
バリア機能低下
TEWL増加・外部刺激の侵入増加
炎症・過敏化
炎症性サイトカインがセラミド合成をさらに抑制

※ この悪循環が慢性化することで、敏感肌・乾燥肌が「なかなか改善しない」状態に陥ります。外部からのセラミド補給がこの連鎖を断ち切る一手になります。

特に、炎症性サイトカイン(IL-4・IL-13など)がセラミド合成酵素の発現を低下させることが研究で示されており、アトピー性皮膚炎のような慢性炎症性疾患では、この抑制が持続的に起きていると考えられています。つまり、炎症を抑えることとセラミドを補うことは、どちらも欠かせない両輪の対応です。

セラミド低下で起こる具体的な症状
  • 経皮水分蒸散量(TEWL)の増大——洗顔後のつっぱり、乾燥感の増加
  • 外部刺激(界面活性剤・花粉・乾燥した空気など)への過敏反応の増加
  • 知覚神経の過敏化——ヒリつき・かゆみを感じやすくなる
  • 皮膚常在菌バランスの乱れ——病原性菌が増殖しやすい環境になる
  • ターンオーバーの乱れ——角質細胞の正常な分化・脱落サイクルの崩れ

外部からセラミドを補給することに意味はあるか

「外から塗っても分子が大きすぎて浸透しない」という疑問を持つ方もいます。しかしセラミドについては、スキンケアによる外部補給が角質層のバリア機能の改善に寄与するという研究報告が複数存在します。

これは、セラミドが皮膚の最深部まで浸透する必要がないからです。セラミドの役割は角質層の細胞間に存在するラメラ構造を補修することであり、角質層の表面〜中間層に留まることでもその機能は発揮されます。特に、ヒトの皮膚に存在するセラミドの構造に近い「ヒト型セラミド」は、既存のラメラ構造に組み込まれやすいとされています(詳しくは第6話)。

また、セラミドをコレステロール・遊離脂肪酸と適切な比率で組み合わせた処方は、単独での使用よりもラメラ構造の再形成を促す効果が高いとされています。この観点から、処方設計は単なる「セラミド配合」以上の精度が求められます。処方の詳細は次回(第6話)でお伝えします。

シェルシュール(cherchœur)がセラミドにこだわる理由

cherchœur skincare concept
「刺激を避ける」から「バリアを育てる」へ——
セラミドはその中心にある

シェルシュール(cherchœur)のスキンケアは、敏感肌を「消極的に守る」のではなく、「積極的にバリアを整え、改善していく」という哲学に基づいています。その中心にあるのがセラミドです。

  • 乾燥肌・敏感肌・加齢肌のいずれにおいても、セラミドの低下がバリア機能障害の根本原因のひとつであるという科学的根拠に基づいている
  • アトピー性皮膚炎をはじめとする皮膚疾患においても、セラミドの補給がバリア機能の改善をサポートするという研究知見を重視している
  • セラミド単独の配合ではなく、コレステロール・脂肪酸との比率、処方全体の設計を含めて、ラメラ構造の回復をサポートすることを目標としている
  • バリア補修だけでなく、神経の過敏化・皮膚内部の炎症状態にも配慮した成分設計を志向している(第9・10話参照)
  • このコンセプトを体現した製品として、美容液「モイスチャーマトリックス(Moisture Matrix)」を開発している

「セラミド配合」という言葉はいまや多くの化粧品に見られます。しかし「どのセラミドを」「何と組み合わせて」「どのような比率で」配合するかによって、その効果は大きく異なります。シェルシュール(cherchœur)がセラミドを重視するのは、流行への追随ではなく、バリア機能の科学的なメカニズムへの理解に基づいた必然的な選択です。

まとめ——セラミドは「保湿成分」ではなく「バリアの構造材」

セラミドを「うるおいを与える成分」として捉えるのは、正確ではありません。セラミドは角質層のラメラ構造を形成する構造材であり、そのラメラ構造が整って初めて、皮膚は水分を保ち、外部刺激を防ぐことができます。

加齢・アトピー・乾燥・過剰洗浄によってセラミドが減少すると、バリアに隙間が生じ、乾燥・過敏・炎症の悪循環が始まります。外部からセラミドを補給し、ラメラ構造の回復をサポートすることは、この悪循環を断つための科学的に合理的なアプローチです。

次回(第6話)では、「セラミドの種類」に踏み込みます。化粧品原料としてのセラミドの分類、ヒト型セラミドの多様性、そしてバリア機能を効果的に補修するための「処方の黄金比率」について解説します。

次の話 — 第6話
セラミドの種類と処方の科学——ヒト型セラミドの多様性と「黄金比率」の意味