「セラミド配合」という言葉は化粧品市場に溢れています。しかし、どのセラミドをどの比率で配合するかによって、バリア機能への寄与はまったく異なります。セラミドの多様性と処方設計の科学を理解することが、「ただのセラミド配合製品」と「バリア機能の修復を意識した製品」を見分ける目を養います。

皮膚のセラミドは、体の中で特別に多様である

セラミドは皮膚に限らず、全身の細胞膜に存在するスフィンゴ脂質の一種です。しかし他の臓器では、NS(スフィンゴシン型・非水酸化脂肪酸)が大部分を占め、種類は非常に限られています。それに対して、皮膚の角質層はまったく異なります。

2022年に北海道大学・木原章雄教授らのグループが発表した研究(Suzuki et al., J. Lipid Res., 2022)では、ヒト角質層の遊離セラミドを包括的に定量した結果、1,327種以上のセラミド分子種が同定されました。これは同一の手法で分析されたセラミド種数として報告された中で最大の数です。

図1 : 組織別セラミド多様性の比較(概念図)
少数
一般的な
細胞膜
数十種
他の臓器
(脳・腸など)
1,327種以上
皮膚
(角質層)

※ 上記は概念的な比較です。皮膚のセラミドが突出して多様であることを示しています(Suzuki et al., J. Lipid Res., 2022をもとに作成)。

なぜ皮膚だけがこれほど多様なのか。その理由は、角質層が果たすべき機能の複雑さにあります。外部からの多様な刺激・水分蒸散・温度変化・pH変動——これらすべてに対応するために、長鎖塩基(LCB)と脂肪酸(FA)の鎖長や水酸化の位置を変えることで、異なる物理化学的特性を持つセラミドが組み合わされています。皮膚のセラミド多様性は偶然ではなく、バリア機能を精密に調整するための進化的な必然と考えられています。

セラミドの分類——LCBと脂肪酸の組み合わせ

セラミドはスフィンゴイド塩基(LCB)と脂肪酸(FA)がアミド結合した構造を持ちます。ヒトの皮膚に存在するLCBは5種類、FAは4種類で、その組み合わせによって20のセラミドクラスが定義されています(Suzuki et al., 2022)。さらに各クラス内に鎖長の異なる多数の分子種が存在することで、1,327種以上という多様性が生まれます。

脂肪酸(FA)↓ / LCB→ ジヒドロ
スフィンゴシン
DS
スフィンゴシン
S
フィト
スフィンゴシン
P
6-ヒドロキシ
スフィンゴシン
H
スフィンガ
ジエン
SD
非水酸化型(N) NDS
Ceramide NG
NS
Ceramide NS
NP
Ceramide NP
NH
原料なし
NSD
α-水酸化型(A) ADS
Ceramide AG
AS
Ceramide AS
AP
Ceramide AP
AH
原料なし
ASD
ω-水酸化型(O) ODS OS OP OH OSD
エステル化ω-水酸化型(EO)
=アシルセラミド
EODS EOS
Ceramide EOS
EOP
Ceramide EOP
EOH EOSD
※ 緑色はヒト角質層での主要クラス(NP・NHで約50%以上、APとAHで約20%以上)。橙色は化粧品原料として利用可能な主要クラス。NHとAHはヒト角質層の重要クラスですが、現状化粧品原料として対応するものはほとんど存在しません。セラミド NGはNDS(ジヒドロスフィンゴシン型・非水酸化脂肪酸)、セラミド AGはADS(ジヒドロスフィンゴシン型・α-水酸化脂肪酸)をそれぞれ定義したINCI名です。旧来の「セラミド2」「セラミド5」はそれぞれNDSとNS、ADSとASの両方を含むとみなされていましたが、アルファベット表記への移行に際して単一クラスの定義に整理されました。

ヒトの皮膚に特有のLCB構成——NP型とNH型が主役

ヒト角質層のセラミドで特筆すべきは、LCBの構成比です。フィトスフィンゴシン(P)型と6-ヒドロキシスフィンゴシン(H)型の2種が全体の約80%を占めており、これはマウス(スフィンゴシン型が約90%)とまったく異なるヒト特有の特徴です。

図2 : ヒト角質層セラミドのLCB種別構成比(Suzuki et al., 2022より)
フィトスフィンゴシン型(P)
約35%
6-ヒドロキシスフィンゴシン型(H)
約45%
スフィンゴシン型(S)
約10%
ジヒドロスフィンゴシン型(DS)
約8%
スフィンガジエン型(SD)
微量

この事実は重要な示唆を持ちます。マウスを使った動物実験のデータをヒトにそのまま外挿することには限界があること、そしてヒトのバリア機能をより適切に補修するためには、ヒトの角質層に実際に多く存在するP型・H型セラミドの構造的特徴を考慮した原料選択が望ましいということです。

鎖長の多様性——なぜ「長い」セラミドが重要か

セラミドの多様性は「種類」だけでなく、LCBと脂肪酸それぞれの「鎖長」にも及びます。Suzuki 2022の研究では、ヒト角質層セラミドのLCB鎖長はC16〜C26に及び、脂肪酸はC16〜C36程度のものが存在することが明らかになっています。

鎖長の多様性がなぜ重要なのか——それはセラミド分子間の「相互作用」の強さに直接影響するからです。鎖長が長いセラミドは、隣接するセラミド分子との疎水性相互作用や水素結合がより強くなり、ラメラ構造の秩序性と安定性が高まります。逆に短鎖のセラミドが多くなると、ラメラ構造の充填密度が下がり、水分蒸散を防ぐ能力が低下する傾向があります。

図3 : 脂肪酸鎖長とラメラ構造の安定性(概念図)
短鎖脂肪酸のセラミド(例:C16程度)
LCB
分子間の隙間が生じやすく、ラメラ構造の充填密度が下がる。水分が蒸散しやすい状態になりやすい。
長鎖脂肪酸のセラミド(例:C24以上)
LCB
疎水性相互作用が強く、分子が密に充填される。ラメラ構造の秩序性が高まり、水分保持機能が向上しやすい。

実際、アトピー性皮膚炎の患者では角質層セラミドの短鎖化(鎖長の短いセラミドの比率増加)が観察されており、これがバリア機能低下と相関することが報告されています(Janssens et al., J. Lipid Res., 2012)。鎖長の短縮は「セラミドが存在している」にもかかわらず「バリアが機能しにくい」状態を生みます。

化粧品でできること・できないこと——正直な整理

現在使用できる化粧品原料のセラミド

1,327種以上のセラミドが存在するヒト角質層に対して、現在化粧品原料として実用的に入手・配合できるヒト型セラミドはわずか5〜6種類にとどまります。主なものはEOP、NG(NDS:ジヒドロスフィンゴシン型・非水酸化脂肪酸)、NP、AG(ADS:ジヒドロスフィンゴシン型・α-水酸化脂肪酸)、APです。

ただし、これで「意味がない」ということにはなりません。量的な観点から見ると、ヒト角質層において最も多いのはNP(フィトスフィンゴシン+非水酸化脂肪酸)とNH(6-ヒドロキシスフィンゴシン+非水酸化脂肪酸)で合計約50%以上、次いでAPとAHが合計約20%以上を占めます。化粧品で配合可能なNPとAPは、この主要クラスの構造的役割を担うセラミドです。

化粧品セラミドの現実的な評価
  • 量的にはNP・APがヒト角質層セラミドの主要クラスをカバーしており、ラメラ構造の補修に寄与し得る
  • EOPはアシルセラミド(ラメラ構造の形成・安定化に特別な構造的役割を持つ)として重要
  • NH・AHはヒト角質層の重要クラスだが、対応する化粧品原料が現状ほぼ存在しないという限界がある
  • LCBと脂肪酸の鎖長多様性(C16〜C36)の完全な再現は化粧品原料では困難
  • 1,327種の完全再現は不可能だが、目的は「完全コピー」ではなく「機能的なバリア補修のサポート」
※ セラミド NG(旧セラミド2)は正確にはNDS(ジヒドロスフィンゴシン+非水酸化脂肪酸)、セラミド AG(旧セラミド5)はADS(ジヒドロスフィンゴシン+α-水酸化脂肪酸)をそれぞれ定義したINCI名です。旧来の番号分類では複数クラスとして扱われていましたが、アルファベット表記への移行時に単一クラスの定義に整理されました。旧来「セラミド1」と呼ばれていたものは化粧品表示上EOPに対応しますが、ヒト角質層で最も豊富なEO型セラミドはEOSとEOH(スフィンゴシン・6-ヒドロキシスフィンゴシン型)であり、厳密には一致しません。こうした歴史的な分類と現在の学術知見の間の齟齬は、皮膚科学の急速な進歩を反映しています。

「黄金比率」——セラミド単体では不十分な理由

角質層の細胞間脂質はセラミドだけで構成されているわけではありません。セラミド(約50%)・コレステロール(約25%)・遊離脂肪酸(約15%)の3成分が組み合わさって初めて、正常なラメラ構造が形成されます。この比率のバランスが崩れると、ラメラ構造の規則性が乱れ、バリア機能が低下します。

エリアス(Elias)らの研究によって、ラメラ構造の正常な形成・修復に最も効果的な外用脂質の組み合わせは、セラミド:コレステロール:脂肪酸がほぼ1:1:1(モル比)であることが示されており、これが「黄金比率」と呼ばれる所以です。セラミドだけを過剰に補給しても、コレステロールや脂肪酸が不足していれば、ラメラ構造の再形成は不完全になります。

図4 : 細胞間脂質「黄金比率」の概念(モル比)
1:1:1 モル比
セラミド(1) ラメラ構造の主骨格。疎水性バリアを形成する。複数クラスの組み合わせが望ましい。
コレステロール(1) セラミドとの相互作用でラメラ構造の流動性と秩序性を調整する。単独配合では不完全。
遊離脂肪酸(1) ラメラ構造の充填を助け、皮膚表面のpH維持にも関与。パルミチン酸・ステアリン酸など。

この知見は、スキンケア製品においてセラミドだけを高濃度配合すればよいのではなく、コレステロールや脂肪酸との組み合わせと比率設計が重要であることを示しています。処方設計の精度がバリア修復への寄与を大きく左右します。

モイスチャーマトリックス(Moisture Matrix)におけるセラミド設計の考え方

以上の科学的背景を踏まえて、シェルシュール(cherchœur)のモイスチャーマトリックス(Moisture Matrix)がどのような考え方でセラミドを設計しているかをお伝えします。

5種のセラミドによる多様性へのアプローチ

合成ヒト型
EOP
Ceramide EOP
アシルセラミド(EO型)。ラメラ構造の形成・安定化に特別な役割を持つ。
合成ヒト型
NG
Ceramide NG
NDS(ジヒドロスフィンゴシン型・非水酸化脂肪酸)。旧セラミド2に相当。
天然ヒト型
NP
Ceramide NP
フィトスフィンゴシン型。ヒト角質層で最も多いクラスのひとつ。醤油粕由来の天然ヒト型原料を一部使用。
合成ヒト型
AG
Ceramide AG
ADS(ジヒドロスフィンゴシン型・α-水酸化脂肪酸)。旧セラミド5に相当。
天然ヒト型
AP
Ceramide AP
フィトスフィンゴシン+α-水酸化脂肪酸型。醤油粕由来の天然ヒト型原料を一部使用。

天然ヒト型セラミド(醤油粕由来)を一部配合する理由

NPとAPの一部には、日本の伝統的な醸造発酵産業の副産物である醤油粕から精製された天然ヒト型セラミドを使用しています。化学合成ではなく、天然の発酵工程から得られるこの原料には、脂肪酸の炭素数がC22以上の長鎖種が豊富に含まれているという特徴があります。

先述の通り、長鎖脂肪酸を持つセラミドは分子間の相互作用が強く、ラメラ構造の安定性に寄与しやすいとされています。炭素数C16程度が主体の合成セラミドと比較して、この長鎖天然セラミドはより生体内のセラミドの構造的多様性に近い性質を持つと考えられます。

※ 天然ヒト型セラミドはモイスチャーマトリックス(Moisture Matrix)に使用しているセラミドの一部です。全てのセラミドが天然由来というわけではなく、合成ヒト型セラミドとの組み合わせで配合しています。

黄金比率(1:1:1)を意識した処方設計

モイスチャーマトリックス(Moisture Matrix)では、セラミド:コレステロール:脂肪酸のモル比がおおよそ1:1:1となるよう意識して処方設計を行っています。これはElias らが示したラメラ構造の再形成に最も有効とされる比率に準拠したものです。セラミドを単独で高濃度配合するのではなく、この3成分のバランスを整えることで、角質層のバリア構造の補修をサポートすることを目指しています。

cherchœur skincare concept
「多様性の模倣」という考え方——
完全な再現は目標ではなく、機能的な補修が目的
  • ヒト角質層の1,327種以上というセラミド多様性を、化粧品で完全に再現することは現実的ではない
  • だからこそ、ヒト角質層で量的に主要なクラス(特にP型・A型)を中心に、機能的に重要なアシルセラミド(EO型)を加えた5種類の組み合わせを選択した
  • さらに、長鎖脂肪酸を豊富に含む醤油粕由来の天然ヒト型セラミドをNPとAPの一部に取り入れることで、より生体内の多様性に近い構造的特性を持たせることを意図している
  • セラミドだけでなく、コレステロール・脂肪酸との黄金比率(1:1:1)を意識した処方設計で、ラメラ構造の再形成をサポートすることを目標としている
  • これは「完璧な答え」ではなく、現在の科学的知見と原料技術の最前線を踏まえた、最善の近似解である

まとめ——「どのセラミドを」「何と一緒に」が問われる時代へ

「セラミド配合」という言葉だけでは、もはや十分な情報ではありません。どのクラスのセラミドを、どのような脂肪酸鎖長で、コレステロールや脂肪酸との比率がどのように設計されているか——これらが問われる時代になっています。

ヒト角質層の1,327種以上という多様性は、バリア機能の精密な調整のために進化が用意した答えです。化粧品がそのすべてを再現することはできませんが、科学的な根拠をもとに「意味のある選択」を積み重ねることが、より有効なバリア補修のアプローチにつながります。

次回(第7話)では、セラミドと密接に関わる「マイクロバイオーム」に焦点を当てます。皮膚の常在菌が敏感肌やバリア機能とどう関わっているのかを、最新の研究知見から解説します。

次の話 — 第7話
皮膚のマイクロバイオームと敏感肌——常在菌がバリア機能に果たす役割